Festival International de la Bande Dessinée, Angoulême (1/31 - 2/1) : Part 2

2/1 (日) 晴一時雨、1〜8℃

 10 時の開場に向けて9時過ぎに宿を出て、また徒歩で市街へ(日曜は昼までバスがない!)。2日目は市中心部から離れた BD 博物館界隈の会場で主に時間を割いた。

 まず『ムーミンの不思議な世界』展にどっぷり浸る。トーベ・ヤンソンの筆になる多数の原画と、ちょうど公開されるアニメ(邦題『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』)にちなんでその制作風景が紹介されている。

 ムーミンのキャラは当初は鉛筆みたいに細く尖った鼻をしていたのが、年代が下るにつれよく知られている丸い鼻に変化していった。この初期の挿絵ではトーベがムーミンママの鼻の形について「もっと太いほうがいいかな…?」と試行錯誤した形跡が見えるね。

 幼少時に読んだ漫画の下書きが多数展示されていて驚喜する。これは『ムーミンと黄金のしっぽ』。

 とはいえ、現在日本で巡回中のムーミン展で重要な原画はたっぷり見られると思うので、ここでは珍しいこんな絵でも載せておきましょう。箱根の富士屋ホテルのメモ用紙にトーベが走り書きしたもの。制作日不明とのこと。1971 年の来日時かしらん。

 劇場版新作アニメのメイキング映像。キャラデザや場面設定はフランス、動画は中国、効果音はフィンランド、英語版台詞はイギリスで作業したという。あちらでは声優さんがラジオ DJ みたいに机に座って台詞録りするんだね。

 前後するけど、前日にトーベの姪ソフィア氏(右から2人目)を迎えて行なわれた『トーベ・ヤンソンムーミン』と題した討論会を聴いた。会話中、日本という地名がしばしば聞かれた。聴衆から「日本のムーミン展のカタログは充実しているらしいが、欧州に輸入されないのですか」と質問が出るなど。
 質疑応答の時に「なぜアニメ化に際してリビエラの話を選んだのですか?」という質問が僕の頭に浮かんだ。でも語学力や場の空気を壊さないマナーに自信が無く発言できずじまい。

 1969 年の日本でのアニメ化が、ムーミンの人気が世界的なものになる大きなきっかけだったことを改めて知る。原作者はその出来にご立腹だったそう(他の国の商品と比べるとこのアニメの色使いの奇異さが目立つね)だけど、今思うとこの原作を発見してアニメ化の企画を立てたスタッフは慧眼だったと言える。

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 『谷口ジロー 夢を見る人』展。タイトルは『歩くひと』にちなんでいるのですな。

 会場に入って「谷口氏もこの展示を見たのだろうか、見たとしてもたぶん客のいない期間前か夜間だろう」などと考えていたら、とつぜん眼の前にご本人が降臨! 取り巻きに囲まれて自作を説明しつつ、慌ただしく先へ進んで行った。僕はご本人よりもゆっくり時間をかけて観て廻ることにした。

 展示には仏・英語と並んで日本語の解説文が示され、デコレーションも変な日本趣味でなくかなり和風感覚を理解したものだ。ノーベル賞授賞式益川敏英氏を委員会が日本語で紹介した時のように、主催者の日本への敬意が感じられて僕は感激した。

 会場は「自然」「メビウスの影響」「グルメ」等のコーナーに分けられている。
 グルメコーナーではドラマ版『孤独のグルメ』の映像が流れていたり。

 そんな中に往年のエロ&ヴァイオレンス劇画の原稿も展示されていて、それを見た仏人観客が「ウーララー」と顔をしかめるのを見た。彼らが抱いていた高貴な谷口作品のイメージを壊すものだったか。しかし観覧者の求めるイメージにおもねることなく、あれもこれもみんな谷口だ、否定すべきではない、と示してみせる主催者の姿勢は正しいと思う。

 日本ではまだ単行本が出ていない『千年の翼、百年の夢』が、フランスでは昨年 11 月に早々とアルバムとして書店に並んでいる(仏題:"Les gardiens du Louvre")。駅前にあったポスターはそのアルバムの広告である。僕はこの複製原画の展示で初めて、これがビッグコミックオリジナルに連載された作品だと知った。仏語版はオールカラー。モノクロ版とカラー版では異なる「塗り」を施しているはずなので、比べてみたら面白かろう。

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 予想はしていたが昨年よりも各会場入場の際のチェックが厳しく、特にシャルリ・エブド回顧展の会場周辺には警官が多数配備されていた。ところでこの回顧展は襲撃事件を受けて急遽決まったものだと思うけど、他の何らかの企画を中止して差し替えたのかしらん。

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 昨年より早い 18:25 の TGV で帰途につく。駅のホームで周りを見ると、両手いっぱいに戦果をぶら下げて嬉々とした乗客ばかり。それに比べてせっかく来ながらアルバムの1冊も買わずに帰る自分はどうなんだと思わないでもない。だって買おうと思えば近所の書店でも通販でも買えるし…。もし最近読んでいる BD 作家が dédicace をやっていればその場で本を買ってサインを求めるのにやぶさかではなかったけれど、その機会は無かった。それでも町中が漫画で埋め尽くされ、通りを行く人々が全員漫画ファンという状況は、非常に心地よい。この雰囲気に浸るために自分は今年も来たのだと思う。
(2015.2.15 加筆)