■ 漫画『やまいだれ(全2巻)』小坂俊史(2008-09 竹書房)★★★★★

 (主に)架空のおかしな病気の数々を題材に繰り広げられるオムニバス形式の4コマ。日本にいた頃に雑誌で読んでいたが渡仏以来ご無沙汰していた。改めて web レンタルコミックで読了。
 小坂作品はデビュー当時から愛読しているが、これほど4コマ漫画の幅広い可能性を感じさせてくれた作品群は初めてかも。昭和的なナンセンス、短編ドラマ並の物語を感じさせる1編、固定キャラによる安定したコメディ、爆発力満点のオチなど、どの方向に転ぶか読めない。
 萌えを意識しているのか、女の子の描き方が昔よりかなり可愛くなっている点にも目が行った。
 だが雰囲気は総じてブラックでドライだ。「どこか病んでいる人々」「社会の病理」が作者の得意な題材ということがよく伝わってくる。過去の小坂作品にもちょっとずれた人がしばしば登場したり、未解決部分の残るモヤッとした後味の4コマが一定の割合で含まれていた(モヤッとした後味は、小坂氏が尊敬するいしいひさいち氏の作風にも通じる)。今回のテーマは彼の真骨頂ではないかな。
 あとがきを読むと、テーマの微妙さゆえ読者から苦情も寄せられたとのことだけれど、気に病む必要はない。われわれは皆どこか病んでいるものだ。病を笑いに変えているのを見て、読者は自分のヘンさを笑いに包む余裕をもらえてラクになれる。その効能を尊重したい。