記事見出し

 時事ネタではなく、日本の新聞の記事見出しはしばしば理解しにくいという話。少し前だけど、こんな見出しを見て「???」となった。

 サムスン電子、米アップル提訴 「スマホの特許侵害」(2011. 4. 22 朝日)

 『サムスン電子』『米アップル』『提訴』と名詞3連発。戸惑った理由の1つは、その少し前に逆の「米アップル、サムスンを提訴」(2011. 4. 19 朝日)というニュースがあったので、それと混同してどちらがどちらを訴えたのか迷ったせいもある。しかしこの1番目の見出し、もし日本語勉強中の外国人が見たら悲鳴を上げるかもしれない、などと思う。

「名詞3つ並べただけで助詞も動詞の活用も入っていないなんて。よくこれで理解できますね! 欧米の新聞見出しでは考えられません」
「たしかに、日本の新聞を読み慣れた人にしかわからない書き方があるんですよね。

 [団体 A]、[団体 B] 提訴

と見出しにあれば、[団体 A](が)[団体 B](を)提訴(した)、というように主語、目的語、時制が一義的に決まるんです。約束事なんです」
「でも日本語では「団体 B を団体 A が提訴した」のように、目的語を主語の前に持ってくる場合もあるのではないのですか?」
「もしそういう倒置をやるなら、さすがに助詞を加えなければなりませんが、字数が増えるので新聞見出しではあまり使われません」
「活用なしの体言止めは過去、というのも約束事ですか」
「はい。新聞は主に過去に起こったことを記すメディアなので。未来なら「起訴へ」などと書きますね。とにかく記者は見出しを1文字でも短くすることに命を賭けていますから、助詞でも動詞活用形でも省けるものはことごとく省くのです」
「短くすればいいってもんじゃないのでは?」
「まあこの場合は、せめて1字加えて「サムスン電子、米アップルを提訴」としてくれたらずっとわかりやすかったですね」

 阪大学長に平野俊夫氏、インターロイキン6発見(2011. 6. 11 読売)

「えーと、これは、学長さんのために平野さんがインターロイキン6を発見してあげた、というニュースですか?」
「違います。学長(という役職)に平野氏(が選出された。その平野氏はかつて)インターロイキン6(を)発見(した人物である)、という意味です」
「ううむ。『選出される』という一番重要な動詞を省略するなんて!」
「この場合は「…平野俊夫氏」でいったん文が終わるんです。

 [役職名] に [人名]

で、「選出された」「就任する」という意味になるのです。これも約束事です」
「『、』のかわりに『。』もしくは『 』(全角スペース)が使われていればそこで文が終わると判断できますが、こんな書き方では難解きわまりないですね。『、』の役割が多様すぎます」
「なぜか見出しには『。』は使わないという決まりがあります。スペースを使わないのは読売ルールみたいです」
「そもそもインターロイキン6って何です?」
「さあ…」
「……」
「そうですね。『阪大学長に免疫学の平野俊夫氏』と書けば一般読者にわかりやすく、字数も少なくて済みましたね。ご本人は業績に言及されなくてご不満かもしれませんが」