山河燃ゆ

 NHK 大河ドラマのオープニングテーマに名曲は数々あれど、『山河燃ゆ』(1984)ほど私の心を激しく揺さぶる1曲はない。多感な時期に観たという個人的背景も無視できないが、短く切られたシビアな主題、伸びやかで穏やかな間奏、その極度な対比は一度聴いたら忘れられないだろう。当然ながらドラマ内容の記憶とセットになって一層強く印象づけられている。
 このドラマは戦前の米国の日系移民社会、日米開戦に至る経緯、戦争によって運命を翻弄される庶民、そして終戦後の東京裁判を描いた物語。日本に対する米国の横暴さ(彼らなりに理由はあるわけだが)が全編通じて通奏低音のように響いていた。今まさに、孫崎亨氏の著書などで「日本は戦後ずっと米国に蹂躙されてきた」と人々が再認識しつつある状況だが、一昔〜二昔前はもっと多くの人がいろいろな手段で声高に叫んでいた。NHK もこんなドラマを1年間通じて放送していたとは今から考えると驚きだ。後に米国を訪れた折、サンノゼやサンフランシスコの日本人街に足を運んだ時には、ドラマで観た苦難の歴史が胸に迫り、涙が出そうだった。

 ピアノ音源で再現してみようと思った動機は、放送当時に母親から聞いた何気ない日常会話から。母の知り合いの御婦人方が、何かのイベントで林光邸を訪問する機会があり、その時に林氏は当時放送中だったこの『山河燃ゆ』の OP 曲をピアノ演奏して客人たちに聴かせたという。この大胆な曲をピアノ1台で弾くとどんな感じになるんだろう! しかも作曲者本人の演奏! 聴いてみたかった! と当時の自分は思ったわけで。

・『山河燃ゆ』テーマ 作曲:林 光(1984 年放送)[MP3 ファイル、2 分 39 秒]
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 YouTube にあるオリジナル OP 映像をお手本に耳コピ。ピアノアレンジは想像するしかない。「林氏の演奏はこんなだったのかなー」と思いを馳せつつ打ち込んだ。ただし2本の手で弾けるようにという配慮はしておりません。
 やはり耳コピの完成度は低いと自分でも思うが、オリジナルを聞き込んでいる過程で林氏の曲に込められたメッセージが少し伝わった気もする。いまこのドラマについて語っておくことは意味があると思う。