ロー・テンション

 仕事の話題ばかりですみません。最近、仕事上の懸案事項がいくつか片付き、そのわりにテンションが上がらない今の自分の状況を、客観的に書き留めておきたい。ついでに自分が進めている研究テーマについても整理しておく。

 今は大きく分けて4つのテーマを並行して進めている。1つを除き、まだ成果が世に出ていない。それらの具体的内容については言及を避けさせていただく。4つは一見バラバラな内容に見えるが、関連がないわけではない。

 テーマA:二酸化バナジウム(VO2)。自発的テーマ。4つのうちで唯一、既にいくつか論文化されている。日本に共同研究者がいる。論文誌から依頼される査読原稿の内容をみていると、世間からは私は主にこれの研究者と認識されているようだ。

 テーマB:日本の共同研究者から持ちかけられたテーマ。共同研究者ネットワークは比較的広がっているけれど、個人的には今までの仕事から最も遠い内容。

 テーマC:当地の共同研究先の企業から与えられたテーマ。テーマBとほぼ同時に話が来た。BとCのために2台目の製膜装置(以下、2号機)を拵えることを決めた経緯がある。現在応募中のプロジェクトはこれに関するもの。

 テーマD:自発的なテーマ。テーマCの具体的計画を考えているときに「あ、こんなこともできるじゃん」と浮かんできた。今は1号機でこの試料を製膜している。年末の国際会議に申し込んだ講演はこのテーマ。

 現在は幸い、エキシマレーザー、1号機2号機のターボポンプ、すべて正常に動いている。もしポンプの1台が壊れても、もう1台あるから製膜がストップすることはないのだ。この点は良い。
 思えば 2009 年に、10 ヶ月ほど1号機の故障が続いた(2号機はまだ無かった)ので、少しでも仕事を進めようと輸送用の小型チャンバーで無理矢理製膜をしたことがあった。竹槍で戦闘機に立ち向かうような、思い出すだに涙ぐましい努力だった。それに比べたら今は装置は順調なのだから、昼も夜も製膜に打ち込めばいいのではないか?と自問したりもするのだが、今ひとつ頑張りが利かない。
 以下、自分のロー・テンションの理由についてつらつらと。

 6月末に2号機がようやく製膜可能となり、BとCについて最初のプリミティブな製膜を行なった。興味ある成果はまだ無いけれども、まずは仕事のステップを1つ上がった気分になって、Cの関係者には PowerPoint で 12 スライドに渡るレポートを書き、Bの共同研究者にはメールで今後の相談がてら報告をした。
 さてCのレポートに対するフィードバックはいまだに一切返って来ない。多くの人が夏休みに入っているのはわかっているが、本当に自分の仕事に関心を持ってくれているのかと疑心暗鬼にならずにいられない。そしてBの共同研究者からは「今ワイハにいるので、帰国してから返事する」と返信が。いや、もちろんそれ自体は責められない。ただたまたまCの無反応と重なってしまったのでちょっとダメージを受けただけ。誰でもそうだと思うけど、研究を進める原動力には共同研究者もしくは世間からのフィードバックが絶対に必要だなと再認識。

 テーマAに関してはB・Cと逆で、現時点では共同研究者の先生におんぶにだっこで、自分ではほとんど何もしていない(何かしようとは考えている)。せめて先生からの連絡にはなるべくフィードバックをしているつもり。

 意気が下がったもう1つの理由。テーマDで使う製膜ターゲット(錠剤型のセラミックスの塊)を同僚が非破壊的な光学測定に使いたいというので先日貸した。昨日その同僚が言うには、光学測定のために表面に金を蒸着する必要があるのだが、やってもいいかと。これには少なからず抵抗を感じた。あとで金の膜を剥がせると彼は言うが、ターゲット本体に影響を及ぼさないとは限らない。
 しかしながら、ただでさえモノの調達に時間がかかる当地の仕事環境、特に今は人が少ない季節だ。できるだけ全体の仕事を効率よく進めるために、ある程度仲間同士で融通し合うことの重要性はよくわかっているので、渋々了解した。でも気が収まらず、帰ってから「今回だけだからね」とメールしたりした。あとから文句を言うのは恥ずかしいのだが、言わずに胸の内に溜め込んでおくよりはマシ。
 「頼まれるとイヤと言えない性格」はしばしば自分に苦痛をもたらす。精進して、その場で NO と言えるようにならなければ。