あかるい科学者

■ 書籍『理系のための人生設計ガイド』坪田一男(2008 講談社ブルーバックス)★★★★★

 最近、知り合いの研究者と会って話していると、どうも暗い話題に終始してしまいがちだ。不景気、事業仕分け、業績評価、研究機関の方針、上司との関係などなど、閉塞的な状況をぼやきつつ、救われない気持ちのまま会話を終えるのが常。明るい話題を口にするのを避けているようにすら思える。かくいう自分の日記も最近はぼやきが多いね。しかし心の底では前向きに生きたいと誰もが思っているはずだ。

 ドライアイの研究で世界的に著名な坪田氏は「楽しくなければ研究じゃない」と言い切る。前作『理系のための研究生活ガイド』(1997) を読んだ時に、彼のポジティブエナジーに圧倒された。本書もその延長線上にある。「明るく研究したいのはやまやまだけど、難しいんだよなー」とついネガティブシンキングになってしまう輩のために、ごきげんに研究人生を送るための具体的なアドバイスを満載。その多くは読者が心の中でなんとなく感じていたことをズバリ書いてもらった感じだが、いくつかは「ええっ」と思うものも。
 前作では「本を書け」というアドバイスが成されていて少しびっくりした。まあ実際に出版しないまでも、本を1冊は書けるくらい自分の世界をしっかり築き上げる努力をすることが重要だ、というメッセージだと理解している。さらに本書では「資産を運用せよ」「会社を作れ」「NPO 法人を作れ」などのアドバイスが語られていて、またびっくりした。かつてこんなことを言った理系研究指南本があったろうか。読者の想定の一段上を行っているなあ。しかし、理系人にもある程度の文系能力が必要という主張はごもっともだと思う。

 個々の事項について、達成目標や目安が数字で記されているのがわかりやすい。理系読者向きだ。私は読了後「30分=5000円」という数式が頭にこびりついている。以後ダラダラ過ごしたら「ああ、○千円無駄にしてしまった」と反省するようになった。仕事もそれ以外の事も、なるべく時間を意識してやるようにしたり。この文を書くのには 47 分かかりました。