構築と破壊

 共通施設に移設されたスパッタ装置の試運転に立ち会う。業者、施設の職員、これから使うユーザーらと共に。
 研究室の製膜装置のポンプを欧州仕様の機種に交換し、真空引きテスト。ポスドクと学生2名の協力を得て。
 研究室の物品の整理や装置の解体を始める。こちらはほとんど1人で。仕事量は多いが、構築に比べれば破壊に要する時間はずっと短い。広くなったスペースで誰にも遠慮せず破壊活動に興じるのは、怪獣になったような気分で結構楽しくもある。ああ、自分は今まで他のメンバーに気を使ってたんだな、とふと思ったり。
 久々の肉体労働で、心地よい疲労

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■『「青色」に挑んだ男たち』中嶋 彰(2003 日本経済新聞社)★★★★★

 青色発光ダイオード中村修二氏ただ一人によって作られたのでは決してなく、何名もの研究者がそれぞれの分野で開発した画期的な新技術が融合して初めて生まれたものだ。中村のみならず、その陰に隠れてあまり一般には知られていない開発者たちの、人生や研究秘話を綴るドキュメンタリー。
 開発を成功させた人々には共通して見られる傾向がある。頑固者であること。執念深いこと。人のやらないことをやろうとすること。そしてしばしば彼らは偶然起こった予想外の現象にヒントを得て、偉大な成果への突破口を見つけ出す。それらはよく言われていることではあるが、青色ダイオードの場合にもまさしく当てはまる。

 とりわけ、大学で成果をあげた赤崎勇・天野浩両氏の話に励まされた。1500 回の実験を繰り返したという情熱。また彼らが最初にできた良質結晶の X 線回折評価を他の大学に依頼したエピソードにも注目した。自分のところに装置が揃っていなくても、ある程度装置を融通しあうことで立派な研究は可能なのだ。応用物理学会の講演会での雰囲気も描かれていて楽しい。青色ダイオード開発という大きなテーマのもと、人々が集まり熱気溢れる議論を展開する。課題達成のためのアプローチ(物質の選択、成長方法 etc.)は独創性がなければならないが、課題そのもの(青色ダイオード)はメジャーなほうが充実した研究人生になるということか。
 研究者たちの考え方や心情が暖かい筆致で描かれているので、彼らの人間臭い面を目の当たりにできて嬉しくなる。なので、理系という人種を「何を考えているかわからん」と毛嫌いしている方にも読んでいただきたい。