倫敦まで七十哩

 朝から晩まで製膜。いろいろあって2枚しか作れなかった。泊まりがけで作業するほど急いでいないので、続きは明日。
 
■『オリバー・ツイストロマン・ポランスキー監督 (2005 英)
 19世紀のイギリスに連れていってくれる映画。どうやら極端に華やかな世界と極端に暗闇な世界が共存していたのがこの頃の英国の特徴らしい。『エマ』森薫)の舞台は華やかさ9割+暗闇1割だが、この映画の舞台は暗闇9割+華やかさ1割。暗くて汚いロンドンの裏町と、そこで活動する人々の描写がじつにリアルだ。『オリバー・ツイスト』はこんなに陰鬱な話だったのか。ずっと前に観たミュージカル映画『オリバー!』(1969) の印象があったので意外だった。冷静に考えればミュージカルのほうが原作とかけ離れた世界だったのだろうけど。

 少なくとも今回のオリバー少年は、周囲のひどい仕打ちをはね返す術もなく、泣いてばかりいる無力な子だった。空想の世界に翼を広げたり、智恵を働かせて問題を解決したりする能動的な子でもない。免疫力が弱い子という印象。善良な紳士が彼を引き取ってくれるのも、紳士が少年の瞳(?)に何かを見い出したからで、少年は自分から何かしたわけでもない。「自分の力で運命を切り拓く」のをよしとするものが多い近頃の物語に慣れていると、この受動的な展開に(古典とはいえ)古い御都合主義を感じてしまうのは自分だけだろうか。

 しかしこの映画は‘かわいそうな孤児は優しい老紳士に引き取られて幸せに暮らし、悪いスリ集団の親方は警察に捕まって刑を受けました。めでたしめでたし’という単純な勧善懲悪で片付けることはしない。暖かい家庭の中に入っても少年は捕らえられた親方フェイギンのために心を痛め、正気を失った親方の牢屋での振舞いは少年への愛を確かに含んでいる。この親方ほど複雑な性格の人物も珍しいが、人間誰しも善悪の二元論では決められない。そして完全な幸福というものもまたありえない。ラストシーンからはそんなメッセージが伝わってくる。それでも人は自分の思い描く幸福を目指して旅を続けるのだ。