中島らも

 十数年前に『頭の中がカユいんだ』を読むまで、中島らもは私にとっては‘かねてっちゃん’のヘンな広告漫画を描く人に過ぎなかった。だから文章に接したときは漫画とのギャップに圧倒された。自由人として生きようとする全方向的なむちゃくちゃなパワーと、それを妨げる者への怒りが紙面から溢れていた。この本によって「中島らも=屈強な無頼漢」という印象が私の中に定着する。
 その後、新聞のコラムやテレビなどで見る彼はしだいに、不思議な話をして皆をケムに巻く飄々としたオッサンへと変化していく。いったい初期の荒々しい男と仙人のようなオッサンとどちらが本当の姿なのか、謎だ。
 たぶん両方本当なのだろう。心の赴くままにその時その時ごとの生き方を生きた彼はやはり自由人だったのだろう。
 そしてあの世へと旅立つやり方もまた、皆の意表を突いたものだった。
 今でもきっと彼は天の上で酒を飲みながら、不思議な話をして聴衆をケムに巻いているに違いない。