レビュー

 論文誌の依頼を受けて他人の論文をレビュー(査読)するのは3回目だが、今回のものほど読者に不親切な論文に当たるのは初めてだ。冒頭の要旨すら載せていないなど、雑誌の所定の体裁を守ろうという気がハナからないし、文章も何が言いたいのかさっぱりわからない。それだけでリジェクト(掲載拒否)したい衝動に駆られる。正直、いくら改稿されてもこの論文にはこれ以上つきあいたくない。(ちなみに著者は欧米の人なのでこの日記を読んでいる心配はまずありません)
 だが私はこれまで、どんなひどい論文でもリジェクトせず「大幅な改稿を要する」と返事してきた。考えてみればリジェクトを食らうことはその論文にとっては死刑判決だ(もっとも他の雑誌に再投稿する道は残っているけど)。「改稿を要する」と返答することは、更正の見込みがあると信じて見守ることだ。現実の犯罪者の死刑判決は世の中への見せしめという意味があると思うけれど、論文リジェクトの場合は関係者以外は誰も知ることがないので見せしめ効果もない。「大幅な改稿を要する」としながら厳しいコメントを返すと著者がやる気をなくして再投稿せずに終る場合もある。そういえば以前、リジェクトする練習をしたほうがいいと旧指導教官に言われたな。
 編集部から督促のメールが来た。今週中には返答しなければ。うーん。