サザエさんうちあけ話

■『サザエさんうちあけ話 サザエさん旅あるき』長谷川町子全集32(1998 朝日新聞社
 『うちあけ話』は新聞連載時(1978年)に、自分としては珍しく毎回切り抜いて保存していた。子供の頃から愛読していたのだ。でも改めて読み返して、子供の頃に読んだ時とはまた違う面白さに溢れていると感じた。
 長谷川町子先生があのサザエさんのような絵柄で綴る絵物語形式自伝。内容は『マー姉ちゃん』としてドラマ化されたから有名ですね。当時朝ドラ化決定を聞いた時には驚いたが、思えばTVドラマにしたくなるほど豊富なエピソードを含んだ作品だったのだ。

 『サザエさん』では時が経たないこともあり、磯野家の日常は至って穏やかだが、『うちあけ話』には戦前や戦争中の庶民の生活から新聞漫画製作の裏話、入院生活、家が火事に会う話など、リアルに生きている長谷川家の人々が描かれている。それでいて大変な出来事も明るい上品な笑いで包んで差し出してくれるのが心地よい。読んでいると「もし自分が入院したり火事にあったりしても、前向きに向かい合えそうだ」などと思える。
 この人の絵と語り口はほんとうに人間肯定を貫いているのが嬉しい。子供から大人までどの人物も人間臭く、会ってみたいと思わせる魅力がある。後半の『旅あるき』はさらに9年後に描かれた晩年の作品であり、さすがに線に不安定さが見られるが、お話は相変わらず読者を引き付ける。全然古く感じないよ。

 全集の他の巻に、姉妹の若い頃の写真が載っていた。『マー姉ちゃん』で演じた熊谷真実と田中裕子にそっくりだった。そういえばモデルのいるドラマの場合、本人と顔の似た俳優を使うことを誰でも考えるけど、その傾向は今よりも昔のほうが強かったようだ、と思う(森繁久弥吉田茂とかね)。