職人

■『職人尽百景(1) - (3)』村野守美(1997 小学館
 江戸期に生きたさまざまな職人たちの物語。だがべつに実在の職人のドキュメンタリーでもなければ、リアルな江戸弁の台詞が飛び交うわけでもない。かわりに職人たちの家を建てたり糸を染めたり紙を漉いたりする仕事風景を縦糸に、その人間模様を横糸にして物語が織られていく。

 いい歳した男が「アハ」なんて甘えた声で笑ったりする。あまり江戸風情ではない。
 男はいくつになってもコドモのようにやんちゃで、女は娘でもオトナびている。他の村野作品もそうだった。いや、彼だけでなくこういう作風の作家たちは昭和40〜50年代には一世を風靡していた。
 でも他の脚光を浴びた作家たちはいつの間にか消えていき、地味な仕事をしていた村野氏は今でも地味ながら円熟味を増して、叙情の仕事を続けている。職人かもしれない。