武蔵と満天

「来年の大河ドラマ『武蔵』の音楽担当、誰だか知ってる?」
「いや、知らん」
「ぼく毎年誰が担当するか楽しみでさ、過去には芥川也寸志池辺晋一郎山本直純三枝成彰等々といった大御所が担当してきたけど、ここんとこ数年はあまりビッグネームではない若い作曲家だったよね」
「で、来年は誰なんだよ」
「聞いてびっくり。エンニオ・モリコーネだって!」
「ええっ! あの『荒野の用心棒』や『海の上のピアニスト』の? テーマ曲だけでなく劇伴までやらせるのか? そりゃぜいたくだな。でもイタリアにいるんだろ、いったいどうやって曲作りをするんだ」
「なんでもスタッフが何度か彼に会いに行って、ストーリーや製作方針を説明しただけで、彼は撮影した映像も見ずに自分でイメージをふくらませて、テーマと38曲の劇伴を完成させたらしい」
「なんだ。38曲だけか。いつもなら大河の劇伴は、毎回毎回映像が出来上がったところで作曲家がそれを見て曲をつけるんだろ。『元禄繚乱』に池辺晋一郎が書いた曲の数は600曲だっていうぜ」
「ん、まあ、今回はそのやり方はやめて、普通のドラマみたいに同じ曲を何度も使い回すんだろうね。だってさ、そもそも600曲も必要か?」
「見てる側が“またこの曲か”と飽きるかどうかだな」
「とにかくモリコーネの音楽が聴けるだけで、このドラマは観る価値があるよ」
もしドラマがつまらなかったら、オレはサントラだけ聴くわ」

「ところで『まんてん』は見てるかい?」
「ああ、あれツッコミどころ満載だよな。「めっちゃうれしかー!」なんて地元では絶対言わねえ、って週刊誌に書いてあった」
「それは主人公のユニークな造語という設定じゃないのかな。酒井法子の「マンモスうれぴー!」みたいな」
「古いね、例えが」
「まあ方言が出てくるドラマはどれも地元の人が見ると「ちがーう!」と思うみたいだよ」
「あと出てくる小道具も時代設定とずれてるのが多いぞ。いま舞台は1997年という設定だろう、97年にあんなスリムなケータイが普及してたか? 97年にパソコンの液晶ディスプレイが広く使われていたか?」
「それは物語の本質とあまり関係ないところだから‥」
「あとな、伝説の気象予報士の柴田さんな、3年前に自分の天候判断ミスで人が死んだために気象予報の仕事を辞めた、って話だよな」
「うん」
気象予報士制度が誕生したのが93年1月だぜ。それから柴田さんは気象予報士試験に合格して、気象予報の会社に入って、その世界で神様と呼ばれるようになって、仕事の得意先の男と予報士の後輩の女と3人で山に登って、その得意先と後輩が婚約して、94年冬に判断ミスをして会社を辞める。その間2年も経ってないんだ。ありえねえだろ?」
「そんな短期間で神様と呼ばれたからこそ、伝説の予報士なんだよ」
「わけわかんねえよ」
「たしかに映画と比べて連ドラは考証に手を抜いているね。時間や費用の関係もあるんだろう」
「オレはたまには徹底的にリアルな連ドラを見てみたいね。1970年が舞台なら服装や化粧も正確に70年のものを」
「だからー、本当の70年のファッションは今見たらヘンなんだってば」