企業人、ノーベル賞をもらう

 ノーベル賞日本人ダブル受賞、おめでとうございます。
 とくに島津製作所の43歳の研究員さんが受賞したのには、ひっくりかえるほど驚いた! でも考えてみれば企業で開発された実験装置で「おお、これはすごい」と思うものはいくつもある。そのアイデアによって学問の世界が大きく進展したら、企業のエンジニアでもノーベル賞という評価が与えられて少しもおかしくはないんだな。学歴、年齢、役職は関係なく、業績だけが評価の対象になるということが改めてわかって、若い研究者たちは皆非常に元気づけられたと思う。

 ノーベル賞委員会から本人への事前情報って、ほんとうに全然ないんだね。
 野依さん、小柴さんは何年にもわたって有力候補と言われ続けていたそうだけど、白川さんや田中さんは本人もマスコミもまったく予想していなかった。
 第一報が入った文部科学省では「タナカコウイチって誰だ!?」と大騒ぎだったとか。なんだかドラマチックでいい話。

 いくら企業の一研究員でも、まったく受賞の前兆がないということは不思議な気がするが、それについての私の周囲での推測は以下のとおり。
 ノーベル賞の選考は、まず賞委員会から世界の著名な研究者に、候補者を推薦してくれという依頼が行くところから始まる。依頼された日本人研究者が誰かに「Aさんを推薦したよ」と漏らしたりすると、噂が広がってAさんが有力候補として注目される。しかし田中さんの場合はそういう過程で選ばれたのではなかった。
 今回田中氏と同時受賞したフェン氏は、田中氏と同様タンパク質の質量分析で優れた業績をあげている高名な学者だ。最初に、フェン氏に賞をあげようという話が持ち上がった。ところがその過程で、田中氏も(手法は違うが)同じ成果を挙げていることがわかり、「フェンにあげるなら田中にもあげないと」ということになった、と。
 おそらくそんなところだろうと思う。
 もちろん、だからといって田中氏の受賞の栄光が損なわれることはない。むしろ、外国ではちゃんと見ている人がいるのに、国内でこれまでほとんど彼の業績が評価されていなかった(専門外なのでよく知らないけど)ことのほうが問題だと思う。文化勲章とか、会社で役員待遇とか、突然あわてて準備しているのを見ると、なんだかなーという思いを禁じ得ない。

 何にせよ、ダブル受賞によって小中学生の目が少しでも科学に向くだろうと思うと嬉しい。
 国の「50年で30人」ノーベル賞受賞者を出すという目標も、ここにきて現実味を帯びてきた。まあその前に50年後の地球がどうなっているか非常に心配ではあるが。