告別

 暑いっすね。暑くて朝早くに目が覚めてしまうので、昨日は珍しく『題名のない音楽会21』など見てみたり。今回は掟破りの音楽特集ということで、タイプライターを楽器として使った曲や、ピアノ用の曲をバイオリンで弾いた演奏などが登場した。最後の曲はハイドンの『告別』。フルオーケストラで始まるのだが、演奏される楽器がだんだん減っていき、自分のパートの演奏を終えた奏者は次々と舞台袖に退場していくという曲。曲が終ったときには指揮者とバイオリン2人だけ残してみんないなくなっている。
 あっ、これは『オーケストラがやってきた』の最終回で最後に演奏された曲では? 私は見なかったけど、最後をそういう曲で締めくくり、ステージ上が無人になって静かに番組が終るということはTV欄で読んで、あたかもひとつの命が消えていくときのようなしんみりした気持ちになったのを覚えている。それに比べて昨日の番組は変な曲特集(?)だからハネケンさんの紹介も冗談混じりで、曲の途中で奏者が退場するときには客席から笑い声すら起こっていた。紹介の仕方、状況によって同じ曲でもこうも受け取られ方が違うのか。

 この曲の次第に失われる感じ、何かに似ていると思ったら『残像に口紅を』(筒井康隆)だった。これは使われる五十音文字がひとつずつ減っていく小説。似たようなことを漫画でやるとしたらどうするかな。まずスクリーントーンが消える。次に擬音文字が消え、フキダシの線が消え、コマの枠線が消え、背景が消え、写植が消え、ベタが消え、ついに人物も消える…とか。漫画って技法のオーケストラだなぁ。