理系人間の言語感覚

 先週花見に行ったときのひとコマ。地べたにシートを敷いてその上に食べ物を並べていたら、ピザを置いた場所の下地がでこぼこしていたのでピザの紙皿が傾いていた。同僚が「ここ傾斜してますね」と言ってピザを横にずらし、「よし、これで平坦になった」と言った。
 上の台詞、我々にとっては何の違和感もないものだが、たぶん世の中の一般の人から見ると「やっぱり理科系の人間は言葉が硬いな」という感想を持たれるのであろう。

 以前新聞の読者投稿欄に載っていた笑い話。ある女性が理科系の男性とお見合いをした。登山を趣味とする彼女が、最近も○○山というところに登ってきたという話をしたら、相手の男が「その山は標高何メートルですか?」と訊ねたという。まったく理系の男は…というオチ。
 これを読んだとき私は逆に心底びっくりした。そうか、こんな聞き方は笑い話になるくらいヘンに思われるのか。
 私も昔からこの男性と同じ癖があって、人の話を聴いていてイメージを確かめたいときについ数字で量を訊ねてしまうことが多い。この彼も、どのくらい登るのが大変な山なのかを知りたかっただけなんだろうが、相手にすれば標高何メートルかなんて「知らねえよ、そんなこと」と言いたくなるような些末な情報にはちがいない。子供のけんかでよく使われる「オレがいつそんなこと言ったよ。何年何月何日何時何分何秒だよ」というフレーズにちょっと近いものがあるな。要は話術の問題で、同じ内容を言うのでもちょっと表現を工夫するだけですんなり受け入れられる台詞になるだろう。

 ある種の理系の職業では会話上でも可能な限り熟語を使い、ものの量や度合は極力数字で表わすことを要求される。情報が誤って伝達されると命取りになるおそれがあるからだ。そんな彼らが仕事を離れた場面でやわらかい言葉に切り替えるのは、大げさに言えば2カ国語を使い分けるようなもの。私も含めた、そういう切替えが不器用な理系人間が、他の人々には外国人のように見えたとしても無理はないが、我々も努力するのでどうか御理解賜りたくお願い致す所存であります。