『下町ロケット』池井戸潤(2013 小学館文庫) ★★★★★

 2011 年直木賞受賞から気になっていたがようやく読了。
 読む前は「まいど1号みたいな話かな?」と想像していて、金融業界が舞台の『半沢直樹』と同じ作者というのが意外だった。でも読んでみたら半沢直樹との共通点がたくさんあった。冷血な銀行からひどい目に遭わされる中小企業の町工場。巨額の資金繰りに苦慮するもあざやかに解決する主人公。悪役はあくまで嫌味な、わかりやすいキャラクター。全体に二者対立でなく、立場の違う三者や四者の思惑が複雑に交差する。そして物語の核心となる主人公の夢や悲願は、ともすれば味方の側にも理解されにくい個人的なものだったりする。
 本作はものづくりの現場に焦点が当てられているから、ものづくり信者としては無条件に胸が熱くなる。しかも努力、友情、勝利という少年ジャンプコンセプトに基づいた(?)明快な筋立て。面白くて止められない。最後のシーンはパスタ屋で読みながら目がウルウルしてしまった。何より(『遠い空の向こうに』と同様)幾多の困難の末についに空へと突き進むロケットほど、読者にカタルシスを与える題材はそうはあるまい。

下町ロケット (小学館文庫)

下町ロケット (小学館文庫)