Moonlight Serenade

■ 映画『グレン・ミラー物語アンソニー・マン監督(1953 米)★★★★☆

 部分的に TV で観た記憶はあるが、通して観たのは初めてかな。大衆芸能の制作現場が描写されている作品には共感をせざるを得ない。『茶色の小瓶』の演奏は彼の死の直後に公になったのか、知らなかった。自分の理想の音楽を具現化するミラーの姿勢には、科学者にも通じるところがあり、お手本になる。
 グレンが妻を娶る過程がちょっと強引すぎて、妻もなんだかアレヨアレヨと流れに身を任せているように見えた点に☆−1。だがグレンを演じた J. スチュアートが「アメリカの良心」、妻を演じた J. アリソンが「隣の女の子」キャラだったと聞くと、ああこれが米国の 50 年代の理想の家庭だったのかとわかり、それはそれで興味深い。J. アリソンのハスキーな声や親しみ易い風貌、日本の江利チエミと立ち位置が似てますかね。

 ところで吹奏楽の世界では今もグレン・ミラー・ナンバーはスタンダードだけど、ミラー以前と以後の音はどう違うの?と言われると門外漢にはよくわからない。実際、私は映画を観ていて、ミラーがうんざりしていた最初の『ムーンライト・セレナーデ』の俗っぽいアレンジもそう悪くないじゃんと思ったし、彼が愛想を尽かす米軍の楽隊の古めかしい行進曲も慣れ親しんだもので違和感を感じなかった。これは私が(そしておそらくは日本人の多くが)多種多様なアメリカ音楽の洪水に晒されて、感覚がアメリカナイズされてしまった結果なのだな。
 楽団のトランペット奏者が怪我をして、窮余の一策でクラリネットにリードを任せたことが、ミラーが新しい音楽を切り開いて名声を得る転機になった…と映画では言っているけれど、彼の音の革新性はそれだけではないよね。そのへん、元吹奏楽部の妹に今度訊いてみたい。