原発推進、即停止、縮小 (2)

 (つづき)前のエントリの要点。

・今後の原発運営の方針は(A)即停止(原子力発電を今すぐやめる)、(B)縮小(だんだん減らしていずれはやめる)、(C)推進(やめない)、の3通りに分類することができる(上図参照)

 さて巷でよく使われる「脱原発」という言葉は、往々にしてAとイコールのような印象を与えるけれども、正しくはAとBを合わせた派閥と解釈するべきだ。ドイツで先ごろ決まった脱原発の方針もBの例である。19 日の国民オープン対話 [YouTube] で菅首相原発再稼働の考えを明らかにしたら、その部分だけ読売新聞の記事になって、非・脱原発のようなニュアンスの書き方をされていた。再稼働は「Aでない」と言うだけで、脱原発とは矛盾していないことをここで指摘しておきたい。
 Bを選んだらさらに、何年までにやめるか(図中の「20XX」)という選択肢が控えている。ドイツの場合は遅くとも 2022 年までに脱原発するという決定だった。政治家などに今後の原発のあり方について意見を訊くときは、まずABCのうちどれなのか、次いでBの場合は XX がいつなのか、を具体的に示してもらうのが望ましいと思う。理論的にはAも「Bの XX = 11 のケース」とも言えるけれど、Aの考えの人はBと一緒にされたくないと思っているだろうから、まあ分けておこう。

 ドイツ政府の決定に続き、イタリアでも国民投票原発推進をやめる道が選ばれたし、日本の世論調査でもBの考えの人が4分の3を占めていることがわかったし、脱原発への機運は高まっているといえる。が、その後で問題になるのは、現在日本のエネルギーの 10 % (訂正:2008 年時点で 26%)を占める原子力をやめた後どうするか、CO2 削減のため化石エネルギーへの依存も同時に減らさねばならないという二重の制約の中で、現在 9 % にすぎない自然エネルギーがどこまで頑張れるのか、また節電がどの程度必要になって行くのか、であろう。

 12 日に行なわれた『自然エネルギーに関する総理・有識者オープン懇談会』のことは、フェイスブック上のお仲間の書き込みで知った。企画に携わったのが我々にいささか縁のある人だったので目を引かれた。また普段見ているブログの1つにも紹介されていたこともあり、自分も遅ればせながら2時間通して見た。ゲストの発言にいろいろ元気づけられる内容があったので、いくつか紹介したい。


 枝廣淳子氏のスライド。原発には寿命があるため、「今後新しい原子炉を作らない」と決めるだけで 20 〜 40 年で自動的に脱原発できるという話。この「減らす」「なくす」ではなく「作らない」「自然消滅に任せる」という無理のなさが、生物の新陳代謝に似ていて良いと思った。何かを急激に変えると、歪みが生じるものだ。「新たに作らない」は脱原発に伴う社会の歪みを最も低く抑える指針だろう。そう思って自分はAよりもBのほうに賛同することにした次第。


 孫正義氏のスライド。従来、原発はコスト面でメリットがあるように言われてきたが、原発事故の補償金や化石燃料費の高騰を考えると、今後は長期的には自然エネルギーのほうがむしろコストが下がって行く見通しだという。コストに何を含めるかにもよるけれども、基本的に産業界はコストで動いているので、コスト抑制に叶っていると認識されたら脱原発自然エネルギー導入への抵抗感は小さくなるはず。

 ほかに「ヒトの細胞は、代謝する時に脳の命令を必要とせず勝手にやる。国民も放っておけば勝手に経済活動や自家発電に取り組むものだ。国は変な邪魔をしないでそれを可能にする枠組み(電力買い取り制度など)だけを作ればいい」(岡田武史氏、孫氏)「ある家の屋根にソーラーパネルを設置しただけで、住む人の意識が節電に向いて、電気使用量が2割減ったケースがある」(孫氏)といった意識・考え方にまつわる話も面白く、自分を前向きな気持ちにしてくれた。原子力を捨てて自然エネルギーを促進することは可能だという意識を、国民一人一人が持つことが必須だと思った。これが一番手強い問題のような気もするけど。

 今回の懇談会はツイッター投稿やニコニコ動画へのコメントで国民がリアルタイムで参加できるという、首相を交えた席としては画期的なものだったと思う。こういう開かれたイベントを企画する人は信用したい。ただあくまで懇談会であって、「ディベート」とは異なり終始和やかなムードだった。今後はA、B、C各派の人々が一同に集まって丁々発止やりあう公開討論会をぜひとも催してほしい。当然、その模様はネットで(できればテレビでも)中継され、国民がコメントできるようにする。現状では3者が同じテーブルに着いても話が平行線になるだけかもしれないけれど、ともかく核心に迫る議論を国民がその目で見て自分の考えを持つ機会が必要だ。