ズボラ

■ 漫画『花のズボラ飯』作:久住昌之/画:水沢悦子(2010 秋田書店)★★★★★

 1年半ほど前から雑誌連載が始まり、帰国のたびにパラパラと見ていた。当初は変わったコラボだなとか、主人公・花のはしゃぎぶりがちょっと見ていてしんどいなといった程度の印象だった。ところが昨年末に単行本が発売されるや、増刷に次ぐ増刷、マンガ大賞にノミネート、新聞の書評や TV 番組にも取り上げられる騒ぎに。自分も発売直後に買って、まとめて読んだら結構面白いと思ったけれど、そこまでの評価を得るとは予想外だった。『失踪日記』や『テルマエ・ロマエ』もそうだったが、自分が楽しんだ以上に世間が大騒ぎするとなんだか変な気分になる。

 同じ原作者による『孤独のグルメ』(画:谷口ジロー)の五郎は外食中心で、心の中で食事への思いを綴るのに対し、本作の花さん (30) は主に自分で料理を作って食べ、その間ずっと1人で思った事を全部(しかも脱力ギャグ多し)口に出している。食事の具合が自分の計画通りにいかなかったり、非常識な人々に静かなる怒りを抱いたり、両主人公の行動は意外に似ている。個人の輸入雑貨商の分際でかつてパリで有名女優と恋仲になったりもした五郎、夫婦仲はラブラブなのに何故か夫を単身赴任させて一人暮らしを謳歌している花と、ちょっとだけ非現実的なほどに同性から羨ましがられそうな人生を送っているところも共通点かもしれない。作中未登場の花のダンナの渾名が”ゴロさん”というのは明らかに「もしかして2人は夫婦?」という読者の反応を狙ってるね。
 とはいえ精緻でリアルな風貌の五郎と、コマごとに頭身が変わったり顔が変形したりする花は、絵柄的にやはり同じ世界には共存できそうにない。実は、たがみよしひさ高橋しん が得意とする「コマごとに頭身が変わる」という一部の漫画の流儀に、私は昔から馴染めないのだった。しかし本作の場合はキャラの可愛さや奔放さを表現する手法としてギリ OK かな。

 料理のほうは、物もズボラならレシピもズボラ、物によっては上手く再現できる保証すらない。レシピ集とは違う。でも「ズボラな料理でも少しの手間を加えるだけで多幸感を与えてくれるものになる」というメッセージは励みになる。