反面教師

■ 書籍『大河ドラマ入門』小谷野敦(2010 光文社新書)★☆☆☆☆

 タイトルで衝動買いして読み、「ハズレをつかまされた!」というやり場のない怒りに囚われた。そして珍しく★1つの作品について此処に書く気になった。
 私が抱いた本書の感想は

 ・著者が自分の好き嫌いを無遠慮に書き散らかしているだけで、読んでいて不快
 ・見ていない作品には言及もしておらず、内容が偏っている
 ・個人感想の記録としてなら許せるが「入門」というタイトルは全く不適当
 ・何より、著者自身の手になる俳優の似顔絵が致命的に下手(ところで私は「小学生レベル」という言い方は好きでない。絵の才能のある小学生に失礼だ。「絵心が無い」というべきだ)

といったものだけれど、アマゾンのレビューでほとんど同じ内容のことを書いた方がおられたので、此処では詳細には繰り返さないことにする。

 その代わり、どうしてこのような完成度の低い本が出版されるに至ったのか、ということをつらつら考えた。

 もちろん、基本的に本を出すのは自由だというのは大前提だ。それを買う買わないは消費者の自由。駄本は買われないことによって淘汰されるべきもの。
 でも出したからには売れると踏んだに違いない。出版社は著者のネームバリューによる一定の需要があるだろうと見込んだのか。率直に言って、本書の出版社や著者は新書というものをなめている、とは感じた。
 翻って、自分もネットに文を書く身として、また万が一将来本を著す立場になったりした場合、このような恥ずかしい所業はするまいと誓った。反面教師として記憶に留め、せめて 777 円分の元を取りたい。

 著者のブログを見ると、本書に関して編集者と著者の間で良好なチームワークが欠如していたことは伺える。それにしても「小学生レベルとか言ってる人は、じゃああんたは大人なんだから描いて見せて、と言いたい」という開き直りには閉口した。これは著者として言ってはいけない言葉でしょうよ。
 まとめ。本書を一言でいうと、お年寄りが趣味で出す自費出版本に近い。身内は褒めるだろうが何千何万の読者の鑑賞には堪えない書物。小谷野敦氏という人間に興味がある人だけが楽しめると思う。NHK 大河ドラマの愛好者には間違ってもお薦めしない。(2/7 読了)