海へ出るつもりじゃなかった

 昨日朝の出勤時、フランス人とイタリア人の同僚と偶然同じバスになり、3人で雑談していた。
 イタリアの Ph.D 課程学生の経済状況は厳しく、去年までは月 800 ユーロしか給金をもらえなかった(現在は月 1000 ユーロになった)、という話を聞く。確かにそれで生活するのは厳しいな…と一瞬思ったが、いやいや、たとえ少額でも Ph.D 学生が給金をもらっているのだからまだマシだ。
 「日本では、博士課程の学生には(一律の)給金はないよ」と言うと、2人とも驚いた。
 「そんな制度で、どうして日本の科学はあんなに優れた成果を上げられるんだ?」
 「たぶんみんな、博士課程は修行時代だと思っているんだ。ヨーロッパでは職人見習いが親方の元で無給で働いて腕を磨くでしょ。日本の博士課程の学生もそれに似た意識なんだと思う」
 「奨学金は?」
 「あるけど、研究職や教育職を 15 年勤めて初めて返還免除になる(*)。そうでない人は返さなければならない」
 「じゃ奨学金というより銀行だね」
 「……」

 博士号は欲しいけど、金を払って働くなんてバカバカしくてできるか!という学生は、海外のドクターコースに進むといいよ。無責任な煽りだけど。優秀な人がどんどん外国に出て、頭脳流出が国家問題になれば、若い研究者の待遇が少しは改善されるのではないかという期待も少しある。
 といっても、最近は若い学生や研究者が海外に出たがらない風潮があると聞く。それを嘆く教授先生は多いけれども、出たがらない気持ちはよくわかる。かくいう私も、今でこそ諸事情により海外にいるが、自分から海外に出ようとしたわけではない(そんなわけで、今日のタイトルの2文字目に「外」という字を入れると、今の自分の心境になります)。言葉も生活環境も大きく違う欧米に住むことには、やはり多かれ少なかれ精神的バリアーがあるのが日本人。欧米列強に学ぶという使命感が強かった明治時代と違い、今は国内にいても世界からそこそこ情報が入ってくるし、多くの分野で日本がトップレベルになってもいるし、留学のモチベーションが上がらないのは自然の理。欧米に引けをとらないほど科学技術が進歩したことによって、日本はかえって再鎖国化が進んでいると言ってもよい。

 * この返還特別免除制度も、今は無くなってしまいました。