S30チルドレン

■ 『ALWAYS 三丁目の夕日山崎貴監督 (2005)
 徹底的にこだわって集められた昭和30年代の記号の数々は期待どおりだ。集団就職蒸気機関車に乗って上京する東北の少年少女たち。彼らを迎え入れる上野駅オート三輪。初めて見るテレビ映像に熱狂する近所の人々。子供らの心を虜にする月刊少年誌。内装が木造の路面電車。氷の塊で冷やしていた電気式でない冷蔵庫。当時の東京の風景やモノや人々の姿に触れたいという目的は十分に達せられた。
 もっとも物語としては、なぜか世間が言うほど感動はしなかったな。いろいろなエピソードが取り入れられているので話が分散して、誰に感情移入すればよいのかわからなかったせいだろうか。それともセオリー通りの筋運びで感動させようという安直な考えが垣間見えたためか。映画でもドラマでも、観客の心を揺さぶるのは粗筋よりも、登場人物が生きて呼吸していることが伝わってくるような一挙手一投足だ。それが演出というものなのだ、といったことを考えた。VFX技術者出身の監督にそこまで求めるのは酷か? ついでながら、一般に映画などで「CGで再現した○○」といった裏話はあまり強調しないほうが良い(これは映画スタッフよりは映画を取り上げる雑誌やTV番組に言うべきことだが)。CGというだけで観客が有り難がる時代は終わり、いまやCGは現実に作ると金がかかりすぎる大道具やアクションの代用品である場合が多いのだ。
 そんなわけで、本作は時代の雰囲気やディテールを味わうという楽しみ方でよいと思う。昭和30年代アイテムの資料として再び観ることもあるかもしれない。