刑罰

 朝から猛吹雪。今夜は助手の忘年会の予定だったが、悪天候のため昼頃に中止の決定が下る。こういう例は初めてだが、この時点ではやむを得ない決定だった。
 ところが、夜になったら雪はおさまった。何だか腑に落ちない。1人で飲みに行ってやろうかと思ったりする。

 ある殺人事件についての公判で、被告に死刑を求刑していた検察側が、1審の無期懲役判決を軽すぎるとして控訴したという話があった。
「別に珍しいことではないけど、無期懲役を『軽すぎる、死刑にしろ』といって控訴する検察って、いったい何様なのかと思うんだよ」
「ああ、死刑には反対なんだ?」
「犯人が再び世に出て同じ犯罪を犯すのを防ぐという目的なら、一生刑務所に入れておいたっていいわけだろう。なぜあえて命を奪おうとするのか。単に検察は自分の主張が通らなかったのでムキになってるのかね」
「被害者遺族の感情に配慮したんだろう」
「死刑になっても遺族は喜ばないと思うよ」
「同様の犯罪が二度と起こらないように、遺族が極刑を望むということはあるよな」
「でも、死刑制度が犯罪の抑止力になっているのかどうかも怪しいよね」
「精神異常のフリをすれば無罪になると思ってるやつもいるしな」
「『死刑にしてほしい』などと自分で言う被告もいたし。死ぬことや、一生牢屋に入れられることの恐ろしさを想像できなくなってるんだね。いや恐ろしいとも思わなくなったのかな」
「だとすると、今の死刑イコール極刑とは必ずしも言えないんだな。絞首刑よりももっと残酷な刑が昔はいくらでもあったんだから、もっといろんな刑罰を採用すればいいんだ。『オレを死刑にしろ』なんてうそぶいてる奴もビビって『頼むからやめて』と泣き出すような」
「近代社会では無理だろう」
「結局、『犯罪者にも人権がある』などという考え方が社会を危うくしているんだよ」
「そうかなあ‥‥」