『夕凪の街 桜の国』

 昼から夜までクリーンルーム作業。先週の金曜日からずっとかかりきりだった接合作製プロセスがようやく一応終了。初めてのことで予期しないトラブルが続出し、3歩進んで2歩下がるというか、乗り遅れた列車を自転車で追いかけるような無謀なリカバリーを試みたりとかで、とても完成形とは言えないツギハギだらけの物が出来上がる。改善すべき点が多数明るみに出たのでこれらは次回以降のプロセスに反映させるということで。スムーズに進めば2〜3日で作れるな。

■『夕凪の街 桜の国こうの史代(2004 双葉社
 手塚治虫文化賞の新生賞を受賞。おめでとうございます。1年前にこの作品(『夕凪の街』)と出会ったときは、4コママンガ誌でお馴染みの作家がストーリー物を描いたという珍しさだけで手に取ったのだが、その物語は予想以上に重厚で、ほのぼの4コマ作品とのギャップも手伝って大きな衝撃を受けた。こうの史代の全ての作品に共通して描かれているものは、愛すべき市井の人々の素晴らしき普通の生活。本作では、それを脅かし否定する強烈な負の要素として‘原爆’が登場する。身体にも心にも悲惨なダメージを被った普通の人々が、負のエネルギーに打ち負かされずに、人と人が信頼し合う普通の日常をいかにして守ろうとするかの物語だった。この人の暖かみのある絵柄でこういう話を語られると、もう心の琴線に触れまくり。
 こうの氏はもともと同人誌で活動していた人で、即売会場で編集者に発見されてメジャーデビューしたという。日本のマンガ作家の層の厚さは相当なものだと実感する。今でも台所のちゃぶ台で作品を描いているとか。とてもそうは見えない完成度だ。ちゃぶ台の職人。巨大なスタジオセットや何万枚ものセル画を使わずとも、ちゃぶ台だけでこのような名作を生み出せてしまう漫画というメディアは素晴らしいではないですか。