『花神』

■『花神大野靖子脚本(1977年 NHK
 総集編のビデオ全5巻を9ヶ月かけてようやく観了。
 その間、リアルタイムの大河では『新選組!』が始まり、同じ幕末ものということでつい比較して見てしまう。『花神』の頃の大河は解説要素をドラマ本編に遠慮なく織りまぜていて、やや『その時歴史は動いた』みたいな雰囲気の番組だったのだな。いまはこ難しい歴史知識は番組冒頭か最後のコーナーでまとめて解説され、ガイド本などを見るとプロデューサーが「堅苦しい歴史のお勉強は抜きで、とにかく楽しめるドラマです」などと語っている。大河がバリバリの‘歴史ドラマ’だった時代を知るファンには、確かに昨今のあまりにエンタテイメントな大河は不満かもしれん。

 『花神』は大河には珍しく学者が主人公。一村医者だった村田蔵六が数奇な運命でいつしか長州や薩長連合軍の参謀として活躍し、倒幕、新政府樹立へと時代を導く。幕末ものの常として、ドラマ全体は殺し合いの連続で、怒号や砲声に溢れ、殺伐とした雰囲気だ。しかしその中で蔵六は淡々と思考をめぐらし、理路整然と人々を説く。林光作曲のゆったりとしたテーマ音楽は、物事に動じない大らかな蔵六の人物像を彷佛とさせる。嵐の吹き荒れる時代にこそ、彼のように理性と人間性を合わせ持つ人物が必要だったのだろう。学者とはこうあるべきだなあ。
 米倉斉加年桂小五郎は真面目な熱血漢だった。キザっぽい石黒賢のそれ(@『新選組!』)とは大きく違う。片や長州、片や幕軍と、ドラマの主人公の立場が正反対だから仕方ないのだけど。でも坂本竜馬夏八木勲江口洋介)のキャラは両方のドラマで非常に似ていた。面白い。

 さて『新選組!』は前回から、近藤勇の顔つきがキリッとしてきた。将軍行列にヤジを飛ばした長州武士を追いかけるあたりからね。これから話の展開がどんどんシビアになると思うけど、殺伐とした時代をどんなふうにエンタメに料理するのか、注目しよう。