神岡

 スーパーカミオカンデにはずっと前から興味があったので、数年前、神岡町が企画した見学ツアーに参加したことがある。昔のままのトロッコで古い鉱山の坑道を潜って行く。地下は壁面なども塗装が行き届いて清潔な空間ができており、地下1000メートルにあるあの巨大な水槽の蓋の上に、われわれ見学者たちは座って説明を聞いたのだ。
 岩盤が固いこと、都会から離れていること、地下水が豊富にあることなどの好条件を満たしていることから、建設地として神岡が選ばれたという話だった。なるほどと思った。地元の人々が愛想よく親切だったのが印象的だった。

 そんなこともあって、神岡という町には、素粒子観測施設のある、夢のある町といったイメージしか抱いていなかった。
 ところが、30〜40年前に富山に発生したイタイイタイ病は、じつは神岡鉱山から出たカドミウムによる水質汚染が原因だったんだね。不勉強にして最近まで知らなかった。
 この事件当時、きっと神岡の名はマイナスイメージをもって全国に広まっただろう。しかし実際には垂れ流したのは企業で、町は被害者だったと言える。
 それだけに、廃鉱を利用して素粒子観測施設を作る計画は、きっと町にとっては絶好のイメージ回復のチャンスと映ったことだろう。

 そしていまの神岡町は“星”をテーマにアカデミックな雰囲気を前面に出した町おこしをしていて、小柴先生のノーベル賞受賞後はさらにその色が強くなっているようだ。
 しかしその隣では今でも古くからの鉱業会社のベルトコンベヤーやトロッコや精錬所が立ち並び、泥にまみれて闘ってきた人々がいたことを思い起こさせる。