研究者のエネルギー源は

 朝、投稿中の論文の査読結果が返って来た。
 ちょっと直せばOKとのこと。やれやれ、もうこれで余程のことがないかぎり掲載されるだろう。
 これだけでも仕事上のちょっとしたニュースなのだが、さらに夕方にも、ひっくり返るような知らせが飛び込んできた。
 ここ数年来われわれが研究し続けて来ている素子とほとんど同じ材料・同じ原理でさらに発展した形のモノを、さる日本の大企業の研究グループが開発したというのだ。2ヶ月前に発表して話題になったそうで、恥ずかしながら今まで知らなかった。

 これを聞いたとき、「しまった、出し抜かれた!」という悔しさと同時に、「なんだ、自分たちの仕事の方向は間違ってないじゃん」という安堵を覚えた自分がいた。
 正直言って、この素子に関するわれわれのこれまでの発表はあまり注目を集めて来たとはいえない。興味を示して下さった方もいるが、表向き無関心な人のほうが圧倒的に多かった。自分のほうも「これはこんなふうに面白いんです」という説得力ある主張をあまりしてこなかったので、それは反省せねばならないが。
 あまり周囲が無関心だと、やる気が萎える。自分のしていることは意味がないのかと思い始める。このグループがわれわれの過去の成果を知っていたかどうかはわからないが、同じ方向を向いてしかもかなり先を走っている研究者がいるとわかったことで、自分たちも頑張って走りつづけなければ、という意欲がわいてきた。

 やはり研究は、その意義を他人から認められてこそ楽しい。少なくとも私は、「世間がどう思おうと関係なく、一人になっても自分のやりたい研究を黙々と続ける」タイプではないのだ。多くの人の興味を喚起し、活発な議論を巻き起こしたい。誰かに「これは面白い」と言ってもらえたら、初めて自分の研究はエキサイティングなものになる。他者との意見交換すらない研究なんて、やっていて何の面白味があるだろう。