くもとちゅうりっぷ

 今や『くもとちゅうりっぷ』(政岡憲三監督、1943)も YouTube で観られるんですね。UP タイトルが英語のため主に英語のコメントが 300 件以上ついていて、いちいち読んでいないけど「戦時中に作られたのだからこれは国策映画に違いない」「クモは米国を、テントウムシは日本を象徴しているに違いない」という意見が幅を利かせているのかな。その種の見方は以前からあったらしく、Wikipedia でも言及されている。
 久しぶりに通して見た。国策云々は抜きにして、メルヘンとして良く出来ている。もちろんいかなる場合も作者の意図は一つとは限らず、本作にも戦意高揚の一面が無かったかどうかはわからない。
 しかしそういう目で見てみると、タイトルが『くもとてんとうむし』ではなく『くもとちゅうりっぷ』であることに今更ながら「おやっ」と思った。主人公はどう見てもテントウムシの女の子で、チューリップの出番は少ないにもかかわらずだ。してみると、本作は小さな生物の目から見た、片や外敵、片や保護者という2つの大きな存在を対比させている構図になる。
 第二次大戦中に日本の保護者として振舞った国があったとは思えない。むしろ日本は他のアジアの国々を欧米列強の侵略から保護する使命を持っていた(と、少なくとも日本は考えていた)であろう。したがって、もしクモが米国の象徴だとしたら、日本を表しているのはチューリップのほうであり、テントウムシは日本が守るべきアジアの国を例えているのではないか、という仮説に達した。念のため、私は右翼でも左翼でもありません。